2030年時点で最大79万人も不足すると言われている日本のIT人材。
現在では、そんな人手不足対策としても活用されている海外でのソフトウェア開発(オフショア開発)ですが、過去と比べてみると利用目的や、人気国とその理由に変化を見ることができ、オフショア先国の選択にあたって役立つデータとなります。
そこで今回は、ここ数年で変化したオフショア開発の人気国の動向について、2026年時点での最新情報をもとに紹介します。
今後オフショア開発を行うにあたってどの国を選ぶべきかを判断するにあたり、参考にしていただければと思います。
◆本ページの目次
Toggle1.日本企業から見たオフショア開発人気国Top5の変遷
まず日本企業は、どの国でオフショア開発を行っているのかについてです。
株式会社Resorzが運営する「オフショア開発.com」では、毎年「オフショア開発白書」を発表しています。
この過去発行版を参考にしますが、2020年版が手元に無く、一方でコロナ禍という社会や経済に大きな影響を与えた出来事を挟んだ変遷を見るため、2019年版及び2021年版〜2025年版で比較してみます。
なお、各バージョンにおける調査は前年(2023年版なら2022年における調査結果)となります。
表にまとめると以下の様になります。
なお()内は、回答に占める割合となります。Top5だけで例年、回答全体の9割近くを占めていますので、日本企業の大半がこれらの国々のいずれかをオフショア先国として選んでいると言えます。
| 順位 | 2019年版 | 2021年版 | 2022年版 | 2023年版 | 2024年版 | 2025年版 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | ベトナム (55%) |
ベトナム (52%) |
ベトナム (48%) |
ベトナム (48%) |
ベトナム (42%) |
ベトナム (43%) |
| 2位 | ミャンマー (10%) |
フィリピン (12%) |
フィリピン (19%) |
フィリピン (21%) |
中国 (26%) |
中国 (21%) |
| 3位 | フィリピン (9%) |
インド (10%) |
インド (12%) |
インド (13%) |
その他 (8%) |
インド (14%) |
| 4位 | 中国 (8%) |
バングラデシュ (9%) |
中国 (7%) |
バングラデシュ (8%) |
インド (7%) |
バングラデシュ (5%) |
| 5位 | インド (8%) |
ミャンマー (9%) |
バングラデシュ (5%) |
中国 (4%) |
ミャンマー (4%) |
フィリピン (5%) |
上記表で見てわかる通りベトナムが一貫して1位をキープしていますが、2019年版では55%と半数超あったものが、2025年版では43%へと徐々に下落している傾向が見て取れます。
興味深いのが2位につけている国の変遷です。コロナ禍以前の2019年版では、ミャンマーが挙げられていたものの、いったんTOP5から姿を消し、2024年に5位で再浮上したものの、2025年版では再度消えています。
そしてミャンマーが外れた後、一時期フィリピンが3年連続で2位でしたが2024年版では、TOP5から姿を消し(Top5外ですが3%で6位)、2025年版では5位となりました。
その代わりに2位に台頭したのが「中国」であり、これは多くの人にとって、意外な結果と言えるのではないでしょうか。
そして世界的なソフトウェア開発のアウトソース先として有名なインドがほぼ3位をキープしており、続いてバングラデシュという状況です。
ではなぜこのような変遷になったのかを深堀してみます。
2.なぜそれぞれの国は、人気国であったのか?
ではTop5にランクインした国ごとの状況を見ていきます。
2-1.ベトナム
過去からずっと1位をキープし続けていますが、かつて半数を超える日本企業が選ぶオフショア先であったのが徐々にシェアを落としています。その最大の理由は、「コストメリット(安さ)」の減少です。
2019年版に挙げられていた選択理由の1つには、「単価の安さ」が挙げられていたものの、前年比で112%となった単価について懸念する声も書かれていました。そして以降の2025年版にかけては、説明においても年々コストメリットが出しづらくなっている状況が紹介されています。
その背景にあるのは2つの要因、為替レート(円安)と人件費上昇です。コロナ禍を経て2022年の3月頃から日本円は下落を開始します。1ドル110円台であったものが現在では1ドル160円超と大幅に下落しました。
ベトナムの通貨ドンも対ドルでは若干下落してはいるものの円ほどではなく、1円の価値が210ドン近辺であった水準から、現在では163ドン程度(時期によっては160ドンを下回る水準)まで下落しています。

過去5年ほどの日本円とベトナムドンの推移。1円当たりのドンへの交換量である為、チャートの下方向に行くほど円安であることを示しています。TradingViewより
そしてその期間中もITエンジニアの給与水準は上昇しています。
以下は、ベトナムでITエンジニアの求人においてもっとも有名で日本のマイナビの子会社でもあるITViecが出しているレポート「IT Salary & Recruitment Market Report 2025-2026」の52ページ目に掲載されているベトナム全土及び主要都市におけるITエンジニアの平均賃金の推移です。

2022年11月に発行された「2022~2023年版」に掲載されていた平均給与(青い線)と、最新の「2025~2026」での平均給与(赤い線)とを比べると、全て上方向へと上昇しており、わずか3~4年でベトナム全土では約33%にもなる上昇となります。
上記はITエンジニアの全体平均であり、経験や開発言語などのスキルによっては、それ以上上昇しているケースがもちろんあります。
加えて、上記給与には含まれていない、法定福利厚生費(会社負担の社会保険料など)も、給与水準の上昇に伴い増加しており、結果それが人月単価の大幅な上昇を招き、かつてベトナムが選ばれる主要因の1つであった「コストメリット(安さ)」が失われたことで比率を下げてきたという背景があります。
2-2.ミャンマー
ベトナムの人件費上昇は、2010年代中盤くらいからよく指摘されていた点でもあり、そういった中で注目されていたのがアジア最後のフロンティアと呼ばれていた「ミャンマー」でした。
ベトナムと比べると日本語人材(ブリッジSEやITコミュニケーター)は少ないものの、ベトナムよりもITエンジニアの賃金が安いこともあり、コストメリットを重視する場合の選択肢となっていました。
しかしコロナ禍の最中である2021年2月の軍事クーデターを境に情勢は一変します。国軍と民主派勢力(国民防衛隊など)及び各民族との間で内戦状態となり、外国企業の撤退や経済制裁といった混乱がオフショア開発にも影響しました。
現在、経済都市ヤンゴンは落ち着いていると言われていますが、外務省の海外安全情報ではほぼ全土が「レベル2:不要不急の渡航中止」エリアとなっており、第二の都市マンダレーの近い地域ですと「レベル3:渡航中止勧告」であるなど、今後の情勢については不確実性が高いと言え、それがオフショア開発先としての人気に影響したと考えられます。
2-3.フィリピンやインド
ミャンマーに代わってコロナ禍より2023年度版くらいまで2~3位にランクインした国が、フィリピンやインドといった国々です。
この2ヵ国が上位に選ばれた理由の1つは、「英語」対応能力です。オフショア開発の場合、日本人と現地エンジニアとのコミュニケーションの仲立ちをするブリッジ人材の人件費負担が開発チームの規模によっては大きくなります。例えばブリッジSEが人月60万、エンジニアが人月50万で3名なら計210万ですが、全体のコストの約4分の1超をブリッジ人材の費用が占めることとなります。
エンジニアの人件費上昇が避けられないのであれば、英語で直接エンジニアとコミュニケーションをして、ブリッジ人材分の費用を抑えることでトータルコストを削減する。このような動きが両国を選ばせた一因でもあります。
そしてもう1つ大きな理由は、グローバル開発体制の構築(グローバル人材の活用)。特にインドは、SAPを始めとしたERP(Enterprise Resource Planning)と呼ばれる大規模な業務・基幹システムの開発を欧米企業から請け負ってきた経験のある人材数は、ベトナムよりも多いと言われており、それが選ばれる理由ともなりました。
2-4.中国
中国は2000年代、主に大連などでのソフトウェア開発が行われ、日本からのオフショア開発先における主要国でした。しかしその後の賃金上昇に加えて、両国関係の悪化や、反スパイ法などによるカントリーリスクが懸念され、中国から開発拠点をベトナムなどへ移す動きが加速します。
しかし2024年版以降で再び2位になるなど、意外ともいえる急上昇をみせています。ちょうど中国でのコロナ禍におけるロックダウンが解除された2023年頃からの変化です。この要因の1つが「グローバル開発体制の構築」だと言われています。
BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)に代表されるように日本企業を凌ぐような高い技術力のある中国のIT企業が注目を集め、そういった環境下で技術を磨いたエンジニア達も増えました。特にAI、ドローン、ロボットなどの分野でも最先端を走っています。
一方でコロナ禍を経て不動産不況・米中関税戦争などもあり若年層の失業率も増加、一流大学を出ても仕事が見つからないなど、中国ではデフレともいえる状況に陥ります。
日本から見てかつての様に「絶対的な安さ」があるわけでもないが、高い技術力を持った優秀な人材を比較的確保しやすく、毎年ガンガン人件費が上がっていく状況にはない(また社会環境としても、かつてにようにすぐ転職してしまう状況ではない)。こういった点が中国を選ぶ要因の1つとして考えられます。
そしてもう1つの大きな要因が、日本で働く中国人IT人材の多さです。ヒューマンホールディングス株式会社の記事によると、「2024年10月時点におけるIT業界で働く出身国別の割合」で中国人は4.26万人と全体の約47%を占め、ベトナム人の6,700人(約7%)よりも圧倒的に多いです。
よって発注元の日本企業に中国人がいる場合、中国国内のITエンジニアとブリッジを介さず中国語で直接やり取りできるケースも多くなります。
このような日中両国における社会環境の変化が、中国を再び2位にした理由と考えられます。
2-5.バングラデシュ
2021年版から4位、5位にランクインするようになったのがバングラデシュです。この国が選ばれる理由は、単価の安さ(コストメリット)と言われています。
では実際にどのくらい安いのか?最新のオフショア開発白書2025年版に記載されていた各国の人月単価を抜粋したのが下記表となります。()内は、前年比です。
| 平均人月単価 (万円) |
プログラマー | シニア エンジニア |
ブリッジSE | PM |
|---|---|---|---|---|
| ベトナム | 40.1 (+1.8%) |
50.0 (+3.5%) |
59.0 (±0%) |
71.4 (+2.0%) |
| フィリピン | 37.2 (-13.5%) |
47.5 (-14.4%) |
60.5 (-17.8%) |
63.5 (-18.8%) |
| 中国 | 58.3 (+31.3%) |
71.7 (+23.0%) |
75.8 (+16.6%) |
84.6 (+12.4%) |
| ミャンマー ※市場調べ |
27.5 (+2.2%) |
40.0 (-4.5%) |
40.0 (-28.1%) |
57.5 (-14.1%) |
| バングラデシュ | 33.8 (-3.4%) |
52.5 (+23.5%) |
82.5 (+3.1%) |
72.5 (-3.3%) |
| インド | 37.5 (-29.6%) |
45.0 (-27.1%) |
60.0 (-13.3%) |
67.5 (-12.9%) |
内戦によるカントリーリスクの高いミャンマーを除けば、プログラマー単価は、バングラデシュが一番安いことが分かります。一方でシニアエンジニアやPMはベトナムよりも高く、ブリッジSEは、日本語人材の少なさから一番高い状況も分かります。
よって上記が意味するところは、それほど高い技術力を必要としない開発内容を安く開発したい。連絡や指示は、英語で直接やり取りができるのでブリッジがいなかったとしても問題ない。そういった発注元に選ばれているのが、理由と考えられます。
3.まとめ:2026年オフショア先国の選び方
既に述べてきたようにこれまでの動向を振り返るとTop5にランクインした国々それぞれに、人気が集まった理由、またはシェアを落とした理由が存在したことが分かります。
そして、すべての企業にとって「100点満点」となる共通の最適な国は存在しません。
よって今後、オフショア開発先国を選ぶ際に重要なことは、まずは「発注元である自社にとって最適な国とは何か?」を明確にする必要があるという点です。具体的には、以下の9つのポイントです。
- 開発を依頼したい内容は何か。その開発にはどのような技術力や経験が必要になるのか?
- 最初の規模から将来的にはどういう体制でどのくらいの規模にしたいのか?
- コストは、将来的な為替動向も踏まえ、どのくらいまでであれば許容できるのか?
- 日本語でのコミュニケーションは必要なのか。現実的に英語でも可能なのか?
- オフショア先とのコミュニケーションを担当するメンバーの対応能力(ITリテラシーや語学力・管理能力)はどうか?
- 時差をどのくらいまで許容するのか。自社の営業時間とどの程度、重なるのか?
- 現地への出張の必要性と行きやすさ(ビザや直行便の有無、航空運賃)はどうか?
- その国と日本との関係も含めカントリーリスクをどう考えるのか?
- 将来的にその国でのビジネス展開も考えてのオフショア開発か?
たとえば、上記(4)(5)で「日本語が必須」ならやはりベトナムが最有力ですし、逆に従業員の英語力が高く(3)の「コスト」を最優先するならバングラデシュが視野に入ります。(1)で「最先端のAI開発」を求めるなら中国、「SAPを始めとしたERP開発」であればインドの高度人材がマッチするでしょう。
以上の様な点を整理し、洗い出した後であれば、自分たちにとって最適な国を選びやすく、後から考えていたのと違ったという後悔を避けやすくなります。
単に人気国だからではなく、各国の特性を踏まえて自社にとって合致する国はどこかという視点で、ぜひ最適なパートナー国を選び出して頂ければと思います。
オフショア開発については、以下記事もよろしければご参考ください。

